試作品製作時におけるアルミニウム溶接が難しい理由

2022/10/10
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アルミニウムは私たちが生活する中で、さまざまな場所で見かけることが多い材質です。アルミニウムは柔らかい材質なので加工はしやすいといわれており、様々な用途に幅広く利用されています。軽量で強度が高く、サビにも強い、無害・無臭で衛生的などの特性を持つことから、調理器具、飲料缶、精密機械、輸送機器などで幅広く利用されています。
一方で、溶接加工は非常に難しいとされており、アルミニウムの物理的な性質が原因とされています。ここでは、アルミニウムの基本的な性質とともにアルミニウム溶接を難しくしている理由をご紹介します。

アルミニウムは融点が低いので溶けやすい

アルミニウムはステンレスや鉄などの代表的な金属に比べて、融点が660℃と低い金属です。
ちなみに、鉄は1540℃、ステンレスは1400℃ですので、極端に融点が低くなっています。
融点が低いということは、熱によって溶けやすいため、溶接加工を行うと熱が母材にすぐ伝わってしまい、変形したり溶け落ちたりしてしまいます。
そのため、アルミニウムの溶接では母材の溶け落ちを防止するために、母材への入熱管理を徹底する必要があります。
アルミニウムは熱伝導率が非常に高い(熱を伝えるスピードが早い)ため、溶接加工の熱が周囲にどんどん伝わっていきます。これを防ぐためには素早い作業が求められるのですが、熟練の技術が必要となり、アルミニウム溶接が難しいとされているのです。

熱伝導率が高く熱によって歪みやすい

熱伝導率とは熱の伝わりやすさを表す指標で、材質によりその数値が異なってきます。アルミニウムの熱伝導率は鉄やステンレスの2倍以上となっています。これだけ他の材質の金属よりアルミニウムは熱の伝わるスピードが速いため、加熱したときの歪みが大きくなります。このため、アルミニウムの溶接では、熱による歪みを抑えるために、溶接時間を短縮する必要があります。難しいアルミニウム溶接であっても手早く作業を行いましょう。

アルミニウムは溶接割れが起きやすい

溶接割れとは溶接部分の周辺に割れが生じてしまうことです。アルミニウムは溶接割れを起こしてしまう傾向が大きい素材となっています。この溶接割れが起こると溶接部分がもろくなってしまいます。
アルミニウムは酸化被膜に含まれる結晶水や待機中の水分を巻き込み、水素が残留しやすく高い熱伝導率の影響により急冷凝固してしまいます。この凝固時に多量の水素が含まれることで「ブローホール」と呼ばれる小さな空洞が発生し、溶接箇所が弱体化することになります。溶接割れや溶接不良の原因となるのです。このため、ブローホールの発生を防止するために、溶接に適した環境づくりや溶接金属の管理を徹底する必要があります。

今回のまとめ

アルミニウムはその特性から、溶接加工が非常に難しいといわれています。開発担当者が試作品製作で溶接加工を行う場合には、ややハードルが高いかもしれません。溶接加工を成功させるためには、熟練の技術と専門的知識が必要とされるからです。
アルミニウムの特性を良く学び、チャレンジすることにも意義はありますが、場合によっては加工後の溶接だけを専門業者に依頼する方法も選択肢のひとつではないでしょうか。